書き方に、厳密な決まりはない
先に、いちばん気になるところから。絵馬の書き方に、こうしなければならないという厳密な決まりはありません。一般には、絵柄のない面に願い事を書き、そのそばに名前や日付を添えます。文面の形式が定まっているわけではないので、自分の言葉で素直に記して構いません。
絵馬は、願いを心のなかに留めておくのではなく、言葉にして板に記し、神前に掛けるものです。頭のなかでぼんやりと思っていたことを、短い一文にしてみる。その作業そのものが、絵馬を書くときのいちばんの中身だといえます。うまくまとめようとしすぎず、いま願っていることを、そのまま書けば十分です。
願いが届きやすい書き方や、効果の高い言い回しがあるわけではありません。絵馬は取り引きではなく、願いを言葉にして神様にお預けするお供えです。どう書くかより、何を願っているのかを、先に静かに思い浮かべておくと、ペンが動きやすくなります。
絵馬の、成り立ち
絵馬という形ができた背景には、馬がいます。神社本庁の説明では、祈願の内容を絵馬に記して奉納するのは、もともと神々に本物の馬を献上していたことに由来するものだとされています。献上された馬は神馬(しんめ)と呼ばれました。
古くは『常陸国風土記』や『続日本紀』などに、雨が降るように祈る祈雨、逆に雨が止むように祈る止雨、そのほかの祈願のために、生きた馬を神前に献上していたことが見られます。平安時代には、宮中で白馬節会(あおうまのせちえ)という行事も行われました。
ただ、生きた馬を奉納するのは、誰にでもできることではありません。そこで時代とともに、本物の馬の代わりに馬の像が、さらに簡略化されて馬を描いた板が奉納されるようになりました。これが絵馬の始まりとされています。やがて馬の絵だけでなく、さまざまな絵柄の絵馬が作られ、個人が身近な願いを記して掛ける習わしが広がっていきました。いま絵馬掛けに並ぶ一枚一枚も、この長い流れの先にあります。
書くまでの流れ
授与所で、絵馬をいただく
手水で手と口を清め、拝殿で参拝をすませたら、社務所や授与所で絵馬をいただきます。初穂料を納めて受け取る形が一般的です。絵柄はいくつか用意されていることが多く、心惹かれるものを選べば構いません。
絵のない面に、願い事を書く
多くの絵馬は、片面に絵柄があり、もう片面が文字を書く面になっています。絵のない面に、願い事を記します。社務所に筆記具が用意されていることもありますが、雨にぬれても消えにくいよう、油性のペンを自分で持っていくと安心です。
願い事は、短い一文で構いません。「家族が健やかに過ごせますように」のように、いま心にあることを素直に書きます。ひとつの絵馬に願いをいくつも詰め込むより、いちばん大切なものに絞るほうが、気持ちが定まります。
名前や日付を、添える
願い事のそばに、名前や日付を書き添える習わしがあります。願いを届けた証として記すものですが、絵馬掛けは多くの人の目に触れる場所です。住所や連絡先まで細かく書く必要はなく、気になる場合はイニシャルや名字だけにとどめても構いません。
絵馬掛けに、静かに掛ける
書き終えたら、境内の絵馬掛け(絵馬を掛けるための棚や台)に掛けて奉納します。先に掛けられている絵馬をなるべく隠さないよう、空いているところへそっと掛けます。家で書きたい場合は持ち帰り、後日あらためて掛けに来る人もいます。
気をつけたいこと
よくある疑問
願い事は、ひとつだけにすべきですか
いくつ書いてはいけない、という決まりはありません。ただ、ひとつの絵馬に願いを詰め込むと、どれも印象が薄くなりがちです。いちばん心にある願いを選んで書くほうが、自分のなかでも何を大切にしたいかがはっきりします。複数あるときは、絵馬を分けるという考え方もあります。
名前や住所は、書かないといけませんか
願いを届けた証として名前や日付を添える習わしはありますが、義務ではありません。絵馬掛けは人目に触れる場所なので、住所や連絡先まで書く必要はありません。気になる場合は、イニシャルや名字だけにとどめても構いません。
絵馬は、持ち帰ってもよいのですか
絵馬は本来、神社に奉納するものです。ただ、記念に残したいという人のために持ち帰りを認めている社もあります。判断は神社によって異なるので、迷ったときは社務所でたずねるのが確実です。持ち帰った絵馬を家の神棚のそばなどに置く人もいます。
書いた願いは、いつ叶うのですか
絵馬は、願いをそのまま実現させてくれる道具ではありません。願いを言葉にして神前にお預けし、自分がその方向へ歩き出すための区切りとしてとらえると、落ち着きます。書いたあと、実際にどう動くかは自分の手に残ります。最終的に決めるのは、あなた自身です。
願い別の絵馬は、選んだほうがよいですか
合格祈願や家内安全など、願いに合わせた絵柄を用意している神社もあります。選べるなら、自分の願いに近いものや、心惹かれる絵柄を選んで構いません。絵柄によって願いの届き方が変わるわけではないので、無理に探し回る必要はありません。
願いを、自分の言葉で
絵馬の前でペンを持つわずかな時間は、参拝のなかでも心が動くところです。何を書こうかと迷っているうちは、まだ願いの形がぼんやりしています。短い一文にまとめようとすると、自分がいちばん大切にしたいことが、少しずつ見えてきます。
絵馬は、願いをかなえる代わりに引き受けてくれる道具ではなく、願いを言葉にして預け、自分が歩き出すための区切りです。書いたあと、実際にどう動くかは自分の手に残ります。掛けてきた一枚を思い出しながら、そのときに感じたことを覚えておくと、参拝は自分のものとして残ります。